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2022.05.09 相続問題
事業承継における相続問題
中小企業においては、株式のほとんどを経営者が所有していることも少なくありません。経営者の個人名義となっている土地や建物を事業に使っていたり、資金繰りが厳しいときは経営者の個人資産から会社に貸し付けを行う場合も少なくありません。
経営者が死亡した場合、これらの株式や不動産、貸付金などの事業用資産は他の個人資産と同様に配偶者や子ども、兄弟などの相続人に分配されます。相続人が会社の後継者のみの場合、または事業用以外の個人資産が充分にある場合ならば問題は大きくないでしょう。しかし、相続人が複数いる場合、または親族外の社員や外部から後継者を選定する場合には注意が必要です。何の対策も取らずにいると株式などが分散し、事業運営に支障が出る可能性もあります。
起こりうる問題
経営者からの相続で問題になるのは、社内承継やM&Aを行う場合のほか、親族内承継でも後継者以外に相続人がいるケースなどがあげられます。また、株式や事業用資産以外の個人資産が少ない場合も問題になるケースが少なくありません。それでは、株式や事業用資産が後継者以外の相続人に分散すると、どのような問題が起こるのでしょうか。
まずは株式。株主総会での決議には「普通決議」と「特別決議」があります。普通決議では株式の過半数(51%)を持つ株主の賛成で成立しますが、特別決議では3分の2(67%)以上の賛成が必要です。特別決議で決定されるのは、定款の変更や営業の譲渡といった重要事項です。つまり、経営者が株式の67%以上を所有していないと、会社にとって重要な事項を自分で決められなくなってしまいます。
次に事業用不動産や貸付金。個人名義の土地や建物を会社に貸し出している場合には、その不動産が後継者以外の相続人に渡り、売却されてしまうと会社で使用できなくなる可能性があります。経営者から会社への貸付金も債権として相続され、人手に渡ると経営者の意に沿わない使い方をされるかもしれません。
事業承継における相続対策
後継者に株式や事業用資産を集中させるには、以下の方法があります。
(1)遺言
通常の相続と同様に、法的に効力を持つ公正証書遺言を作成することで事業用資産の配分を指定することが可能になります。しかし、後継者以外の相続人にも「遺留分」があります。遺留分とは配偶者や子ども、直系尊属(父母・祖父母)が持つ最低限の遺産相続権保障。経営者に配偶者や(後継者以外の)子どもがいた場合、遺留分は法定相続分の半分となります。遺留分を持つ相続人が多い場合や事業用以外の個人資産が充分にない場合には、遺言だけで後継者に事業用資産を集めることは難しいと考えてください。
(2)役員報酬
前もって後継者を自社の役員に就任させ、業績に応じた役員報酬として自社の株式を配分する方法もあります。この場合、報酬として配分した株式は遺留分の制約を受けません。
(3)生前贈与
生前贈与とは被相続人が存命のうちに財産を贈与することを意味します。後継者に株式や事業用資産を贈与しておくことで、分散を防ぐことができるのです。一般的な相続では、生前贈与した財産にも遺留分が認められています。後継者が法定相続人以外の場合は相続開始の1年前、後継者が法定相続人の場合は10年前までに生前贈与された分が、遺留分に算定される基礎財産の対象となります。
しかし、円滑化法(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)の民法特例には「除外合意」「固定合意」があります。除外合意とは、経営者の推定相続人の合意があれば、経営者から後継者に生前贈与された自社株式を遺留分算定の基礎財産から除外する規定。固定合意とは、自社株式を基礎財産に算定する際の価額を固定する規定となります。これらの民法特例により、自社株式の生前贈与を受けた後継者を遺留分の制約から守ることが可能になりました。
(4)議決権制限株式
上記の対策では株式の分散を防げない場合は、議決権制限株式を活用するという方法もあります。議決権制限株式とは、議決権を行使できる事項に一定の制限がある株式のことです。一切の事項に議決権を行使できない「無議決権株式」もあります。後継者以外の相続人に分配する株式を議決権制限株式または無議決権株式に指定することにより、株式が分散しても後継者が議決権を保つことができます。
対策を進める際の注意点
公正証書遺言の作成や役員人事、議決権制限株式の発行などにはそれぞれ時間と準備が必要になります。事業承継の準備と同時並行で、相続対策も早い段階から進めなければなりません。まずは経営者が所有する事業用資産と個人資産を算定し、事業用資産が分散する可能性を確認。必要に応じて議決権制限株式の発行や生前贈与を行います。
ただし、従業員や社外後継者など相続人以外への生前贈与が発生する場合には、事前に相続人とよく話し合っておかないと後からトラブルになる可能性もあります。円滑化法の民法特例適用にも相続人との合意が必要と記載されています。事業承継と親族間の相続問題をバランスよく解決しながら、会社を存続させるための資産分散対策を検討していきましょう。
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