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2022.03.31 何をする?
事業承継の要素と課題点

「生涯現役」

この言葉をモットーに創業時から一代で会社を築いた中小企業の経営者も多いではないのではないでしょうか? 経営者の多くは、戦後の高度経済成長と共に会社を発展させ、バブル崩壊やリーマンショックを生き残り、自らの経営手腕で良い時も悪い時もリーダーシップを発揮してきたわけです。取引先と一から関係をつくり、従業員の雇用を守り、自身の人生を捧げてきた会社は、言わば手塩に掛けた我が子のような存在です。定年がない経営者にとっては手放したくないという気持ちが先行し、現役でいつづけたいと考えるのも無理からぬことでしょう。

しかしそのような状況で経営者が60代、70代と迎えるならどうなるでしょうか? 経営者がいなければ必要なリーダーシップを取ることができず、取引先との関係や仕事の技術・ノウハウも経営者頼りの企業になってしまいます。経営者に一極集中してしまい、いざ承継しなければならないというタイミングや不慮の出来事が訪れた時に、あたふたしてしまうことになりかねません。経営者が生涯をかけて培ってきたものを短期間で引き継ぐことはできないので、あなたの貴重な財産を自らの代で終わらせないためにも、しっかりと事業承継の準備をすることは大切です。では具体的にどんな準備したら良いのか考えてみましょう。

何を承継するか?

事業承継の準備といっても具体的に何をしたらよいのでしょうか? ただ後継者が見つかって引き継げばよいのでしょうか? 株式や資産を相続すれば問題ないのでしょうか? 事業承継には様々な要素が関係しています。大きく3つに分けて考えてみましょう。

1.人(経営)の承継
現経営者(人)から後継者(人)へ経営権を引き継ぐことです。中小企業の中にはこれまで決裁はすべて経営者自身が行ってきたというところも少なくないでしょう。製造、管理、営業、経理、総務など経営に関わるすべてが、経営者に一極集中していた場合には特に承継は大変でしょう。経営の素質を持つ後継者の選定や育成を行い、何をどのように承継を行っていくのかを考慮していく必要があります。後継者一人にすべてを引き継ぐのではなく、一部の権限を役員・従業員に分業して引き継ぐ必要もあるかもしれません。

2.人(経営)の承継に関する主な要素
・経営権(代表権)
・経営力
・後継者の選定と育成

3.資産(財産)の承継
会社の株式や設備・不動産などの事業用資産、さらには会社の運転資金や負債などを引き継ぐことです。資産は相続の際に親族内に分散される可能性があり、事業に関係がない人に相続された場合に経営の弱体化などが懸念されます。また相続人から後継者に対して株式や不動産などを買い取るように要求されるということもあるでしょう。本来なら経営に注視するべきところを余計なことに時間や労力が奪われてしまうといったことになります。そうならないためにも現経営者が後継者に対して、安定した経営を行うために必要な資産が承継され、一方で事業に関係のない相続人が、事業とは関係のない資産が相続されるような体制を整えていくなら、トラブルを避けることができるでしょう。

資産(財産)の承継に関する主な要素
・自社株式
・設備や不動産などの事業用資産
・資金(運転資金・借入金など)
・経営者保証

目に見えにくい経営資源(強み)の承継(知的資産)

経営者の「想い」や経営理念、培ったスキルやノウハウ、人脈やそれに伴う信用、顧客の情報などを引き継ぐことです。つまり個々の中小企業の強みを承継することになります。承継を期に企業としての長所や短所を見極め、経営者と後継者がよく相談して、何を残し、何を承継していくのかを精査していくことが重要です。加えて会社として業務を行なっていくのに必要な許認可も知的資産に含まれています。

経営資源(知的資産)の承継に関する主な要素
・経営理念
・経営者の信用・人脈
・営業機密
・技術・ノウハウ
・顧客情報
・会社が取得している許認可

すぐにはできない! 承継のための準備

すでに考慮したように承継には様々な要素があるということについて考えました。一般的にこうしたものを承継していくには5~10年を要すると言われていますので、早めに取り組むことが大切です。事業承継のためにどんなことが課題になるでしょうか。

1.後継者が見つからない
子どもがいない、若い人材の確保が難しいなど事業を継ぎたいという意思を持つ若者が減ってきている社会で、適切な後継者を見つけていくというは容易ではありません。3年もの間、後継者となる人材を探しているという中小企業も珍しくないのです。経営者が高齢に達したときにも適切な後継者が見つからなければ、例え会社が黒字経営であっても廃業することになり、従業員は路頭に迷ってしまうことになります。

2.後継者育成と教育
適切な後継者が見つかったとしても直ちに経営を引き継げるわけではありません。後継者が経営者としての資質を備えるための知識やスキルの習得には時間を要します。例えば後継者がこれまで製造に携わり技術やノウハウは習得していたとしても、マネージメント能力、取引先や顧客との信頼を得ているとは限りません。

「進んでいますか? あなたの会社の後継者育成」の記事はこちらから

3.将来性
5年先、10年先の事業価値について考えてみましょう。現在の業績はどうなるだろうか? 今後も維持し続けることができるだろうか? 将来はもっと業績がアップするだろうか? と事業の将来性について考え「可能性」や「期待感」を引き出します。後継者が事業を承継したいと思える魅力について考慮し、承継後に経営者が負担を負わないための努力をしていく必要があります。

4.多額の債務や財政上の課題がある
会社が金融機関から融資を受ける場合に経営者が債務を保証するのが一般的です。事業承継の際に後継者はこの経営者保証も負わなければならなりません。後継者やその家族には大きなリスクが伴うので経営者保証を受け入れることに同意しないというケースもあります。承継までの間に債務や財政上の課題を減らすことができるだろうかと準備を進めていくことができます。

5.会社の理解
会社全体が現経営者の人柄や能力に頼り、変化を望まないということがあります。従業員は現経営者にはついていっても、後継者にはついていかないのです。こうしたギャップを埋めていくための準備が必要です。

事業承継するにあたって、いくつかの課題をとりあげましたが、個々の会社の状況や承継方法によっても異なることでしょう。経営者にとって自分が元気である内に引き際を決める(引退の時期を定める)というは気乗りしないかもしれません。しかし承継には時間がかかりますし、経営者自身がいつ、何が起きても大丈夫なように、備えをしておくことは大切なことなのです。引退の時期をなんとなくではなく、明確に定めた事業承継計画を策定しましょう。

東京都中小企業公社でも事業承継の準備を考慮されている中小企業の皆様に専門家を交えた無料のサポートを実施していますので、気軽にご相談いただければと思っております。

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