情報提供

2022.05.09 「事業承継後継者交流会2022」開催レポート

東京都中小企業振興公社は2022年3月3日、「事業承継後継者交流会2022」を開催した。
第1部の基調講演はZOOMウェビナーによるオンライン配信にて実施。有限会社永塚製作所 代表取締役社長の能勢直征氏と株式会社カネコ小兵製陶所 専務取締役の伊藤祐輝氏がそれぞれ講演を行った。
第2部は公社会議室にて、「事業承継塾」「後継者イノベーションスクール」修了生を含む後継者の皆様で意見交換。株式会社ビスティミオ 代表取締役の西村聡氏がコーディネーターとなり、グループごとに経営や組織作りに関する議論を深めた。

第1部 基調講演
(1)基調講演①
有限会社永塚製作所 代表取締役社長 能勢直征氏

1968年生まれ。千葉のホテルで営業や販売促進の仕事に就いていたが、40歳の時、妻の実家である有限会社永塚製作所に後継者として入社。サーフィンが趣味で、休日は日本各地の海岸でクリーニング活動に参加している。
異業種出身の後継者による『モノづくり&コトづくり&ヒトづくり』
~大正から受け継いだモノづくりを活かして、未来のムーブメントを創造する~

能勢氏は事業承継における課題と解決、ヒット商品「MAGIP(マジップ)」の開発経緯と、商品を軸にしたムーブメントや情報発信について解説した。
有限会社永塚製作所は大正初期に創業。金属加工業の盛んな新潟県三条市で、火バサミや十能などを製造していた。販売先は全国のホームセンターや100円均一ショップ、金物屋など。能勢氏が入社した当時は100円均一ショップのマーケットが輸入商材に切り替わり、ホームセンターのマーケットも飽和状態となっていたという。

能勢氏がまず考えたのは「自立」。それまでの販路は問屋任せで、販売先も販売価格も把握できていなかった。そこで、エンドユーザーとの接点を設けて製品が使用されている現場をリサーチ。火バサミがBBQやゴミ拾いに使用されていることを知った。能勢氏はサーフィンが趣味で海に関わりが深かったため、まずは海岸のごみ拾いに参加。地域の人々やNPOのメンバーと交流を深めながら、より使いやすいごみ拾い用のトング開発に乗り出した。

コンセプトは「私たちは地球のサポーター」。持ち手と先端にアースカラーのシリコン樹脂を使用。新潟のプロダクトデザイナー、荻野光宣氏にデザインを依頼しスタイリッシュな意匠に仕上げた。完成した商品は「MAGIC+GRIP」で「MAGIP(マジップ)」と命名。プロの目で評価を得たいと考え「にいがたIDSデザインコンペティション」に応募したところ、IDS賞を受賞した。GOOD DESIGNにも応募し、大企業と並んでBest100に入選。日本スポーツGOMI拾い連盟の公式トングにも認定された。

さらに能勢氏は自社製品を使った社会貢献、ソーシャルデザインにも取り組んだ。日本スポーツGOMI拾い連盟と協力し、三条市内でGOMI拾い大会を開催。現在まで恒例のイベントとなっている。さらに信濃川や湘南、表参道でもゴミ拾いを企画した。

事業承継して新社長となり、企業理念を『モノづくり&コトづくり&ヒトづくり』に変更。社長として積極的な情報発信に取り組んだ。「にいがた産業創造機構」からアドバイスを受け、メディアの目に留まるニュースリリースを多数発信。実際に新潟日報や日経、読売、朝日などの新聞に掲載された。

地域を盛り上げるため、2013年から「燕三条 工場の祭典」というイベントを開催。モノづくりの現場を見せる見学イベントで、製作体験やレセプションパーティーも実施した。イベントは各種メディアに掲載され、販路開拓や新製品開発、後継者確保につながっている。

能勢氏が大切にしているのは「一回だけの人生なので、できることは全部やる」「先代のビジネスモデルを大切にしつつ、そこから未来を創造する」そして「閾値を超える」こと。「中途半端にやってもニュース性がない、活動を継続することで人とのつながりが生まれる」と締めくくった。

(2)基調講演②
株式会社カネコ小兵製陶所 専務取締役 伊藤祐輝氏

1987年生まれ。東京理科大学を卒業後、自動車部品メーカーのバイヤーとして6年間勤務した。2019年、父が経営するカネコ小兵製陶所に入社。同年10月に、本日の後継者交流会を後援している「中小企業大学校東京校」第40期経営後継者研修を受講した。研修終了後は「『伝統』と『先端』の往復運動」をテーマにSNSやYouTubeなどを駆使し、自社のみならず伝統工芸の産地を盛り上げるべく活動に励んでいる。
事業承継に向けた『伝統』と『先端』の往復運動
~文脈を知り、文脈を活かし、文脈をつくる~
伊藤氏は入社後3年間の経験と、経営後継者研修で学んだ内容から、事業承継のプロセスを「文脈を知る」「文脈を活かす」「文脈をつくる」の三段階に分けて解説した。

最初の「文脈を知る」に関連して、伊藤氏は自社の歴史や事業を紹介した。株式会社カネコ小兵製陶所は昨年で創業100周年を迎えた陶磁器製造業者。三代目の現社長・伊藤克紀氏は「ぎやまん陶」「リンカ」などの人気シリーズを生み出している。「ぎやまん陶」はクリスチャン・ディオール本店で販売され、ベルサイユ宮殿のパーティーでも供された。「リンカ」シリーズもビヨンセほか多くの有名人に使用されている。伊藤氏は改めて自社の歴史を学び、製品の質や評価を知ることが経営者の考えを理解する助けになったという。

また、企業理念も経営者と後継者をつなぐ重要な「文脈」であると伊藤氏。同社の企業理念は「私たちは焼き物づくりを通してくらしの中へ『小さな』しあわせを届け楽しくて心地よい、普段着の生活文化を創造します」というもの。この理念を理解しきれていないと、経営者の考えている指針から外れてしまう。伊藤氏はこの理念に深く共感しているが、それでも解釈の違いから意見が衝突することもあると語った。

次のプロセスは「文脈を活かす」。自社の歴史や企業理念、製品の価値を理解した上で、自分の役割を考えることが重要だと伊藤氏はいう。伊藤氏が現在取り組んでいるのは、SNSやYouTubeを駆使した「マイクロメディア戦略」。中央のテレビや新聞に掲載されるには費用がかかり機会も少ないが、規模の小さいメディアに多数露出することで同等の効果がある。実際に、コロナ禍が始まった頃にインスタグラムで仕掛けた「#うちで盛ろう」というキャンペーンは多くの反響を呼び、新聞やヤフーニュースにも掲載された。特に地元の「中日新聞」への掲載が効果的だったと伊藤氏。地域的にも業界的にも平均年齢が高いため、ネットで話題になるよりも新聞に掲載される方が好印象を与えるのだ。経営者や同業者から「後継者として頑張っている」と認められ、信頼も得られたと話す。

最後のプロセスは「文脈をつくる」。これは自分が事業を承継してからのステップになると伊藤氏は言う。日本の陶磁器生産量は35年間で87%ダウンするなど、業界として縮小傾向にある。そういう厳しい状況だからこそ、新しい考え方を取り入れて業界を盛り上げていきたいと伊藤氏。単に売り上げを伸ばすだけではなく、製造に携わる人々が楽しく、気分よく働ける環境を作りたいと展望を述べた。伝統と先端、長い実績と若いアイデアは二項対立と捉えられがちだが、どちらに偏ってもいけないと伊藤氏。自社の文脈を知り、これからの文脈を考えながら伝統と先端を往復していくのが、これからの事業承継に必要だと締めくくった。

○第2部 グループディスカッション
第2部のグループディスカッションでは、株式会社ビスティミオ 代表取締役の西村聡氏がコーディネーターとなり「環境変化の激しい時代、成長を続けるために経営者は何をすべきか」「組織を強くするための取り組み」といったアジェンダで議論。最初は西村氏からテーマに沿った切り口を提示し、その後数名ずつのグループに分かれてチャットで話し合って意見をまとめ、発表した。ディスカッションには基調講演を行った能勢氏と伊藤氏もオンラインで参加。後継者ならではの課題や、社員の前では言いにくい悩みや迷いなども共有し、解決のヒントを得ていた。

コラム一覧へ